地方創生・地域活性化の第一線で活躍する「地域おこし協力隊」

未だ多くの課題を抱えている「地域おこし協力隊」制度について現役の隊員および受け入れ自治体職員への
アンケートおよび直接取材を通して浮き彫りになった現状とその可能性について共有するサイトです


先進自治体に学ぶ制度を有効活用する方法⑤ 〜受け入れ態勢および活動費運用〜

 
 

前々回から始まりました先進事例に学び制度を有効活用する方法として具体的なポイントや注意点についてご紹介しておりますが、今回はその第三弾として「受け入れ態勢、活動費運用」について先進事例に学ぶ具体的なポイントや注意点についてご紹介していきたいと思います。

現在約900の自治体で協力隊を受け入れており、一自治体に一人の担当者がいるとしても900名の担当者がいることになり、それぞれに地域の歴史、地域を取り巻く環境、組織文化、地域住民の方々との関係など千差万別だと思いますが、それでも、受け入れ担当職員の皆さんが地域住民・役場・協力隊の三者がハッピーになれるような制度活用の一助になれば幸いです。

なお、毎回の注釈で恐縮ですが、本ブログは協力隊や受け入れ自治体の職員の皆さんへの直接取材とアンケート調査*1の結果に基づく内容になっていること、全国で約4,000名が活躍する地域おこし協力隊全員にお話をお聞きすることは困難であることからお話をさせていただく内容はあくまでも一部から全体を推測するものであり、あくまでも傾向であること、そして、ご協力いただいた皆さんに匿名での取材をお願いしておりますので、個人・団体を特定できる情報は一切掲載していないことをご理解ください。


*1 : 2016年5月から7月にかけて地域おこし協力隊のみなさんを対象に行ったインターネットアンケート。結果の詳細はこちらをご覧ください。

受入体制の整備

受け入れ態勢の整備という点で行わなければならないことは大きく分けて2つあります。

一つは、隊員の生活環境の整備であり、もう一つは隊員の地域おこし活動環境の整備です。
なお、受け入れ態勢の整備として何をすべきであるかは、受け入れる地域の状況や隊員に期待する活動や役割により大きく異なることからここで書かれていることがすべてではなく、最低限のことであるとお考えいただければと思います。

また、実は活動が始まってからは隊員主導で様々な活動が行われますが自治体職員が直接手を出すことはそれほど多くはなく、受け入れ態勢の整備にこそ大いに力を入れるべきであると個人的には思います。


受け入れ態勢の整備①:生活環境の整備

言うまでもなく生活環境の整備は、見ず知らずの土地で隊員が安心して生活をしていく上で非常に大切な要素になってきます。また、地域に溶け込むという観点では、地域住民に溶け込みやすい環境を生活拠点として準備することは大切なことだと言えます。

まず、最初に確認すべきことは根本的なことは居住可能な住居の有無です。空き家活用に大きな課題にもなっていますが中山間地域では居住可能な状態の住宅が少ないこともあり早い段階で居住可能な住居の有無について確認すべきでしょう。

また、地域住民と同じものを見て、同じことを聞くという意味で、地域住民が触れているメディアと同じメディアに触れることができる環境作りも大切であることから、ときにケーブルテレビなどのインフラの整備も必要かもしれません。さらにコミュニティー型の協力隊として積極的に地域での生活を発信することを期待するのであれば、必要なインフラ(ネットワーク環境、PC、撮影機材など)の整備も考慮する必要があるかもしれません。

さらに日々の生活面の足についても十分考慮が必要だと思います。ある程度公共交通機関が整っている中規模な地方都市であれば貸与の必要さえないこともありますが、中山間地域の集落に在住するコミュニティー型の隊員などの場合には買い物など日々の生活面でも車が必須となる環境であるため専用車の貸与に加え、その私用利用の許可なども視野に入れるべきではないでしょうか。

この辺はどこまで生活環境の整備のため必要か、どこまで地域おこし活動として必要であるかの線引きが難しい所ではありますが、その地域に在住している住民の平均的な生活環境を把握し、それに準じた環境を前提として隊員に期待する活動内容をできる限り具体化しておくと同時に「報酬」と「義務」の適切な緊張感が保たれていれば実はそれほど悩むことではないかもしれません。


受け入れ態勢の整備②:地域おこし活動環境の整備

地域おこし活動に関する環境整備という意味では、着任前にすべきことと着任後にすべきことがあると思います。着任前に着任後にすべきことまでしてしまうと、それが隊員の活動の制約となってしまうこともあることから注意が必要だと思います。
特に隊員の活動と密接に関係があるようなこと、隊員の同意を得た方が良いことについては着任を待って一緒に決めた上で環境整備を行うことをお勧めします。特に初めて隊員を受け入れる自治体ではノウハウが少ないこともあり、隊員の同意を得ながら一緒に仕組みを作っていくことがより一層重要になると思います。


隊員が着任前にすべきこと・できること

最初にすべきことは、役場内外の地域おこし協力隊の活動に関わる関係者に対して受け入れ組織・その責任者を明確にすること、そして予算管理方法・費用負担などについても明確にすることだと思います。

さらに地域おこしに直接関わらない地域住民や自治体関係者へも制度や想定される活動内容についてきちんと説明することで先々な余計な雑音を最小化できると同時に直接的、間接的に隊員の活動を支援する力になることも少なくないためとても重要なことです。

役割分担・費用負担の考え方についてきちんと整理をしておかないと、役場外の任意団体で受け入れを行うケースなどでは、机やパソコン端末の費用から電気代などの費用負担について隊員の目の前でもめることになり、役場の信頼を著しく下げるだけでなく、着任したばかりの隊員がその状況から受ける失望感は計り知れないため十分に注意すべきだと思います。

また、活動費予算の管理方法についても役場内のルールと各自の役割を整理することが大切です。
先にご紹介した専門組織を立ち上げ、そこで一元的に隊員を受け入れている場合は問題になりませんが、活動内容に応じて隊員を様々な役場内の課に配属するケースの多くで、隊員を配属すると同時にその隊員に紐づく予算も各受け入れ課に配布すること(「里子」という言い方をされていました。)が、よく見かけられますが、この方式をとると配属先の担当者ごとに活動費の運用が異なることも少なくなく、そのことが隊員の不満の要因になっていることも多いため、特に自治体として明確のルールを決めることは必須だと思います。また、それを制度などの形で明文化し公表できればなお良いと思います。

制度への理解度に差があると同時に共通のルールがない状態で活動費を運営することは、結果的に受け入れ職員個人の考え方に運用方法が依存する事態を招きます。そのため前述した通り、活動費の運用ルールや判断における役割や責任を明確にすると同時に理想的には専門組織を作り、活動費管理を一元化すべきだと思います。

また、活動費に運用においてもう一つ大切なことは、透明性を持った運用をすることです。地域おこし協力隊のみなさんは、ほぼ全員受け入れ自治体が国から特別交付税として上限400万円を受け取れることを知っています。ただ、どこまでの費用項目が許可されるのか、着任自治体での予算の状況や拠出ルールなどは知る由もありません。また、お金に関する不信感が人間関係に与える影響は計り知れず、それは地域おこし協力隊に限らず地域住民の役場に対する信頼に大きな影響を与えます。

そのため誰に聞かれても胸を張って答えられるような運用をすべきですし、その運用について透明性の確保が非常に重要になってくると思います。

私が行った取材やアンケートを通して協力隊にみなさんから不透明な活動費運用の話を何度となく聞いています。そして、お聞きするたびに隊員と役場・役場職員との間の信頼関係の欠如を強く感じます。

これは地域おこし協力隊に関連する予算に限った話ではなく、地方自治体における根本的な情報公開の考え方に関連することですので実は一朝一夕に行かないのかもしれませんが、その場合であっても役場の担当職員と隊員との間では透明性を持った運用をすべきだと思います。


隊員着任後にすべきこと

(1) 活動計画作り

何より先に活動計画作りが大事です。

活動計画作りは、限られた時間を効果的かつ効率的に使っていく意味で大切なことですが、さらに活動計画作りを担当職員と一緒に行うことで相互理解を深めると同時に信頼関係を築く大切な第一歩となることからもとても重要なステップだと思います。

活動計画に記載すべきことにはいろいろありますが、最低限の項目としてか以下のものが挙げられると思います。
・目標:3年後の姿、目指すゴール(定性・定量の両方の観点で)の明確化
・マイルストーン:最終ゴールに行き着くために実行すべき作業・工程とそれぞれの期限の明確化
・予算計画:最終ゴールに行き着くための工程毎の予算

特に地域おこし協力隊の場合は3年と任期が決まっていることから、最終的な姿に到達するためにやるべきことを逆線表の形でプロットし、スケジュール化していくという方法が有効だと思います。

また、この活動計画作りの中で自治体の仕組みの中で絶対にできないこと、頑張ればできること、可能性が半々であることなどを事前に職員と話をしながら明確にしていくことで、実現できないことに多くの時間を割くことを避けることができます。さらに職員も隊員が実現させたいことを踏まえて自治体として努力しなければならないことを把握でき、そのための準備を行うことができることから計画作りをしっかりと行う事、隊員と職員が協力して行う事はとても重要なことだと思います。

(2)報告会や発表会の設定

地域おこし協力隊の活動は、裏方の黒子のような活動になることが多く、準備に時間がかかることも多いことから活動を認知してもらう機会が少ないのが現実ではないでしょうか。

また、基本的には知らない人だらけの中で地域おこし活動という地域住民の協力が求められる活動をすることは、苦労や悩みも多く、それらを相談する相手が必要になることはいうまでもありません。

そのため、定期的に隊員と職員が話をする機会を持ち「活動の認知」を行うと同時に心のケアに繋がる「メンタリング」やアドバイスや気づきを与える「コーチング」を行う機会を持つことはとても大切だと思います。

また、隊員が一堂に会する活動発表会を開催することで他の隊員の活動から刺激を受けたり、自分の活動のヒントを得ることができることから隊員の活動をより有意義なものにする上でも有益なだけでなく、隊員同士が協力し合いより大きな成果を出す下地にもなることから組織立って地域おこし活動をする上では必須だと思います。

さらに定期的に首長と直接話す機会を持つことで、担当職員には言えない悩みを相談したり、今後の活動において即決してほしい施策などについても持ち込む先ができ、隊員のモチベーションの維持・向上にも繋がることからその機会を積極的に作るべきだと思います。

これらの認知の機会が定期的にあることで、隊員の緊張感が保たれるという点も見逃せないポイントではないかと思います。

しかし、このような機会を持つことについて何よりもお伝えしたいことは、人は自分の存在そのものや活動を認めてもらえないと生きていけない生き物であるということです。
その意味でも単に議会説明・住民の問い合わせ対応目的で隊員に紙ベースの報告書を提出させるという報告形態をとるのではなく、隊員の活動をきちんと認知し、時に褒め、時に叱り、隊員が地域のために活動できるように、そして、隊員の自己実現を支援するために定期的に対話の機会を持つことが大切だということです。

さらに兎角無理をしがちな隊員の心と体のケアをする上でも定期的な報告会は必須ではないでしょうか。

(3)隊員の予定管理

予定を管理するという言い方をすると「監視」という印象をもたられるかもしれませんが、そうではなく、ここでお話ししたいことは隊員が活動しやすくなるように予定をオープンにするということです。つまり、役場内の職員の中で隊員の活動予定がオープンになっていれば少なくとも役場の職員の中での隊員に対する疑問の声が減少すると同時に、地域住民などからの問い合わせをどの職員が受けても答えられるため地域内での活動の透明性が保たれ、地域おこし協力隊はより一層活動しやすくなると思います。

具体的な方法は、他の自治体職員が使っているスケジュール管理ツールを隊員が使えるようにするという形が最もシンプルかつ導入しやすい方法ではないかと思います。
こんな簡単なことにより前述のように役場内の他の職員や地域住民の疑問の声を軽減できるだけでなく、隊員は誰も読まない日報などを書く必要がなくなると同時により一層地域おこし活動に専念できるようになります。

つまり、隊員の予定を管理することは隊員を管理するためではなく、隊員を守るために行うという意識で実施すべきであると思います。
また、そもそも職員の予定を管理する仕組みがない場合は別ですが前述のように既存の仕組みを使うため新たな費用や工数が発生しないため導入のハードルが低く、ぜひ取り入れるべきだと思います。

(4) 研修案内

総務省より隊員を受け入れている自治体の受入担当者宛に隊員向けの研修案内が定期的に送られていますが、開催場所や定員数が限られているため、少しでも申し込みが遅れると参加ができないという状況があるようです。

そもそも隊員数に対して研修機会が圧倒的に少ないという問題があり、隊員からのニーズ次第では研修機会の量的な改善が必要になってくるとは思いますが、現時点で受け入れ自治体の担当者としてできることは総務省から届く研修案内を迅速に隊員に届けることではないかと思います。

お話しをお聞きする限り、研修の案内メールは受入担当職員が受け取り、そのメールを職員が隊員に転送するという方法をとっており、なぜ隊員に直接送らないのか疑問が残ります。
途中退任する隊員もいるためメーリングリストの管理が煩雑になることが理由かもしれませんが少し工夫すれば総務省でも受け入れ自治体でも解決できる問題だと思いますので、他の様々な問題同様積極的に工夫し、少なくとも活動する地域や担当職員により得られる機会に差が出ることがないようにすることが大切ではないでしょうか。

(5) 情報発信

隊員が見ず知らずの地域で地域住民の協力を得ながら地域おこし活動をするということは、地域住民の立場からすれば役場に雇われた部外者がなんだかよく分からないことをしに来たように見えるのではないでしょうか。
特に住民の年齢構成上保守的な方が多く、そのためただでさえ閉鎖性が強く、防御的になりがちな地域住民に対して、地域おこし協力隊に心を開いてもらうこと、さらには隊員個人を理解してもらうこと、そして、その活動内容を理解してもらうことは非常に重要になってきます。

そのため、受入自治体としては利用可能なメディア全てを駆使し、提供できる限りの情報を発信していくことが大切になると思います。
ローカル新聞、ケーブルテレビ、ラジオ局などと連携し、積極的に隊員の活動を紹介することや、役場に立ち寄った地域住民が持ち帰れるように地域おこし協力隊の制度や隊員の自己紹介などを載せた冊子などを新たに作成し、役場の待合室などに設置するのも良いと思います。

地域住民向け、つまり内向きの情報発信も大切ですが、もう一つ意識すべきものとして外向きの情報発信があります。

その最終的な目的は、移住者を増やすことや観光客を増やすことになり、そのため以前(第十七回「隊員活動を有意義にするBETTER DOS(すると良い行動」)にもお話しした通りより一層戦略的に行う事が求められます。
繰り返しとなるためここでは細かくは触れませんが、自治体職員としては効果的な情報発信を地域おこし協力隊が行えるように一緒に外向けの情報発信戦略を考えていくことも大切ではないかと思います。

また、自治体の既存の外向け情報発信と協力隊が新たに行う外向けの情報発信が相乗効果を生み出すような情報発信戦略を作り、実践していけるとより一層良いと思います。

(6) メンタルヘルスケア

地域おこし協力隊が活動をしていく中で心を壊してしまうという話を少なからずお聞きしていました。また、一般的に心を壊す要因を特定することが難しいと言われますが、そのためか地域おこし協力隊がなぜ任期中に心を壊してしまったかという要因について明確な説明ができる人はいません。

しかし、特別職という自治体から地域おこし活動を委嘱された立場の方が多いためか地域おこし協力隊に対してメンタルヘルスケアの体制をきちんと整備しているという話をお聞きしたことは一度もありませんし、インターネットアンケートにおいても関連する設問を用意していなかったため実態は分かりませんが、少なからず任期中に心を壊してしまう隊員の方がおられるという現実を踏まえ、隊員を受け入れる自治体においては隊員のメンタルヘルスを定期的にチェックするストレスチェック制度や専門医へ相談する機会を提供するなどなんらかの体制整備をすべきだと思います。

おそらく、職員向けの制度や仕組みがあると思いますので、その制度や仕組みを隊員が利用できるようにするだけでも良いと思います。

特にこれからを嘱望される若い世代は、経験や知識が少ないこともありストレス耐性がそれほど高くないとも考えられますので十分な配慮が必要ではないかと思います。


活動費の運用

以前のブログで活動費の運用に関するルールや役割・責任分担を役場内で整理しておくことの重要性について触れましたが、ここでは隊員の活動支援という観点から見た活動費の運用方法におけるポイントについていくつか触れたいと思います。

(1) 活動計画に則った支出管理

まず何よりも大切なことは地域おこしにつながるように計画性を持って活動費を使っていくことですが、そのために大切なことはこれまで何度もお話ししてきた活動計画に則るということです。

つまり、活動費を使う大前提は、着任直後に作成した活動計画に則った支出であることであり、もし、それに則ったものではない場合には、計画自体をきちんと見直すというプロセスを経るということです。
別な言い方をすれば、原則活動計画にない突発的な支出は認めないということでもあり、それだけしっかりと予算計画を作りなさいということにも繋がってきます。

活動計画に則った活動費の支出であれば、計画自体が地域おこしに繋がっている限り地域おこしのために使われるということになり、思いつきの考えやアイデアなど期待できる成果をきちんと説明できない支出は最低限に抑えることができると思います。

また、税金で構成されたお金を使うということは、その使途について説明責任があるということでもあり、活動費という「お金」を使う上ではその妥当性をきちんと説明する「義務」があることは当然とも言え、この「お金」と「義務」の適切な緊張関係を築く意味でも、ここで述べた活動費の考え方は協力隊運営の根幹であり、非常に重要なポイントになってくるのではないかと思います。

(2) 透明性

次に活動費運用に関して大切なポイントは、透明性です。

これまでお話しをしてきた通り活動費の透明性がないことが起因し、隊員と職員の関係に疑心暗鬼が生じるケースが少なからず見られました。透明性を持った活動費の運用ができない背景については、調べることが難しい分野でもあり定かではありませんが、私が今回の調査の中で見る限りは百害あって一利なしだと思います。

特にそれほど使用した実績がないにも関わらず、残高が少ないという理由で活動費の使用申請を却下されるようなことがあった場合は、仮に本当に残高が少ないとしても隊員は職員が別のことに流用しているのではないかと疑うでしょう。このようなケースは、活動費の透明性の他にそもそもの活動計画の有無や活動費の使用ルールの整備の点でも疑問が残りますが、隊員に余計な疑念をもたれるような振る舞いをすることで隊員との信頼関係を壊すのであれば、多少無理をしてでも透明性を持った運用を心がけ、計上予算の内訳や予算の使用明細を共有した方が良いと思います。
また、生活環境の整備などのために隊員の着任前に活動費を使用しなければならない場合には隊員にきちんと説明ができるようなお金の使い方をしなければならないことは言うまでもありません。

(3) 資金前渡、概算払い

次に予算の使用許可が下りた場合の資金の拠出ですが、時間のかかる役場の手順を任期の限られた隊員に適用するのではなく、できる限り迅速な資金供給ができるよう資金前渡や概算払いを適用することは必須だと思います。そのため資金前渡や概算払いを適用できるよう出納課などの関連課と事前に話をし適用するためのルール(金額上限の見直し、領収書、購入物品を見せるなど)を整備することが重要です。

※1資金前渡:地方公共団体にて少額な物品などを購入するときに文字通りそのための資金を前渡する仕組み。自治体によりその対象となる経費や金額上限、手続き方法は異なる。
※2概算払い:上記の資金前渡と同様のものであるが、概算払いは勘定科目や金額が不明の金銭を支払った場合に、それらが確定するまで一時的に使用する。

(4) 固定資産の購入

最後に地域おこし協力隊の物品購入において多くの職員を悩ませる固定資産の購入です。

これまでに何度かお話をしてきましたが、隊員の活動上、固定資産の購入が必要となるケースが少なからずありますが、任期満了後に隊員の資産になってしまうと特定個人への利益供与を疑われる可能性があることからそのような物品の購入を許可しない職員が少なからずおりました。

また、総務省や都道府県の地域おこし協力隊担当職員のお話では、地域おこし協力隊の活動費の使途について特に制約をかけておらず、仮に固定資産の購入を行っていたとしてもなんら違和感はないという回答もあること、固定資産の購入を許可している自治体もあることから必ずしも隊員を受け入れる自治体の職員が共通に抱えることが要因ではなく、あくまでも特定自治体の職員の判断により起きていることが分かります。

では、固定資産の購入を許可している自治体はどうしているのでしょうか。

一つの方法は、自治体が買い上げ、それを隊員に貸し出すという方法です。
この方法は比較的多くの自治体が行っている方法であり、「個人の持ち物にならなければ良い」という考え方です。しかし、この方法では、隊員以外の地域住民からの貸し出し要望にも答えなければならず、任期が限られている隊員がタイムリーに使えないという状況が生まれたり、その物品が隊員の任期満了後の生業に直結するような場合には事業の立ち上げや継続に影響する可能性があり、本質的な解とは言えないと思います。

そのため、この問題をさらに解決するため買い上げた物品を隊員の任期満了時に安価に卸すという方法をとっている自治体もありました。
この方法をとれば、隊員は任期中に使用していた使いなれた物品を任期満了後に継続して使うことができるため一見良さそうですが、一方で任期中に他の地域住民などからの要望があれば貸し出さなければならないというデメリットが残ります。

そのため、最終的に先進自治体が行き着いた方法は、補助金制度でした。

何をしたかといえば地域おこし協力隊向けに新たな補助金制度を作ったのです。
具体的には地域おこし協力隊が申請できる新たな補助金制度を作り、その申請条件として地域おこしの活動計画をきちんと提出し、審査を受けることとし、審査上問題がなければその計画のために必要な資金が供給されるという方法です。
ご察しの方もおられると思いますが、この補助金の財源は地域おこし協力隊向けの特別交付税ですので、簡単に言えば、地域おこし協力隊制度を受け入れ自治体で新たな補助金制度として運用しているということになります。
こうすることで許可を得た範囲内であれば使途に制限をかける必要もなく、申請者が必要な物品を購入することができるだけでなく専用で使うことができます。また、補助金という性質上返済の義務もないことから任期満了後の返済の必要もなく継続して利用できると同時に、そもそも隊員に活動計画をきちんと作ることをルール化している自治体であれば、いずれにせよ隊員は活動計画を作っているため新たなに準備しなければならないこともないのです。

この活動費における固定資産の購入については、今回の調査を通して最も地域おこし協力隊制度の自由度を感じたと同時に自治体の既存の仕組みと併用することで様々な可能性が広がることを思い知らされました。
私自身は、自治体職員の経験がないためこれ以上の提案はできないですが、本ブログを読んでいただいた自治体職員のみなさんであれば、日々の業務の中で活用されている様々な仕組みを組み合わせることでもっと良い方法を思いつくのではないでしょうか。
活動費の運用は地域住民の目が行きやすいところであると同時に隊員の活動に大きな影響を与えるところでもあり、バランスがとても難しい分野だと思います。しかし、同時に言えることはだからこそ地域おこし協力隊制度の自由度の高さを活かせる分野でもあると思います。
税金で賄われた予算を生きたお金にする上でも日々の改善・改良をぜひお願いいたします。


最後に

今回は地域おこし協力隊に関することの中でも特に隊員の多くが不満に感じている受け入れ態勢および活動費の運用についてご紹介してきましたが、この2つの分野こそ、実は地域おこし協力隊制度の自由度をもっとも活かせる分野であり、地域おこし協力隊の活動成果に最も大きな影響を与える鍵となる要素だと思います。

今回ここでご紹介した内容はあくまでに先進的な自治体の事例をまとめたものであり、私自身は自治体職員の経験もなく地方自治法に精通している訳でもないため教えてもらったことをお伝えすることが精一杯ですが、先進的な取り組みをされている方を見ていると年々地域おこし協力隊の運営体制を少しずつ改良しており、少しでも活動しやすい環境を整備しようと絶えず頭をひねって考えている印象を受けました。

そういう意味では、地域おこし協力隊制度が始まってまだたった8年であり、急速に導入が進んだのはここ数年であることを考えると、まだまだ改良の余地があるのだと思います。

もう一つ、先進的な取り組みをされている自治体の職員の方がおっしゃっていた言葉を幾つかご紹介いたします。
・出来るか出来ないかではなく、やるかやらないか
・成功の反対はやらないこと

結局こういう意識で日々の仕事環境をよりよくするためにできることを積極的に実施ていくという姿勢の延長線上に成功があるのだと思います。

次回は、「定住・企業支援、その他」についてのポイントや注意点についてご紹介致します。

最後に一点お願いです。

現在昨年に引き続き2017年地域おこし協力隊向けアンケートを実施しています。
これまでに全23回となっている本ブログ「地域おこし協力隊の仕事」も昨年多くの方にご協力いただいたアンケートの結果が非常に重要なインプットとなっております。

アンケートは現役の隊員、任期満了された隊員、途中退任された隊員の皆さんが対象になります。
今回のブログの内容は主に受け入れ自治体の方向けに内容となりますが、ぜひ貴地域で活躍されている協力隊の皆さんにご紹介をいただければ幸いです。

アンケートは下記の「アンケートに協力する」ボタンをクリックいただくことでスタートします。
ご協力のほど何卒宜しくお願い致します。

皆さんの意見を聞かせください

地域おこし協力隊制度はまだまだ発展途上であり、事例やノウハウの共有が必須になります。
皆さんのご意見・ご感想などなんでも結構です。多くのコメントをいただき、本サイトが地域おこし協力隊のノウハウ蓄積・事例共有の場の一つになれば幸いです。