地方創生・地域活性化の第一線で活躍する「地域おこし協力隊」

未だ多くの課題を抱えている「地域おこし協力隊」制度について現役の隊員および受け入れ自治体職員への
アンケートおよび直接取材を通して浮き彫りになった現状とその可能性について共有するサイトです


制度・導入状況

 
 
 

地域おこし協力隊を知る上でその制度や導入状況などの概況を理解することは大切なことだと思います。ただ、このような基本情報については総務省の地域おこし協力隊ページをご覧頂けば確実ですの本ブログでは、地域おこし協力隊制度の特徴や導入状況などポイントとなる部分だけを抽出してご紹介したいと思います。


地域おこし協力隊制度

地域おこし協力隊制度は、平成21年(2009年)に総務省により制度化された地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした制度です。

地域おこし協力隊の制度の詳細については下記引用文に記載があります総務省のホームページに詳しく書かれていますので、ここではそのポイントや特徴についてご紹介します。

地域おこし協力隊の目的

地域おこし協力隊とは簡単に言えば、離島や山間部の地域などの過疎地域に代表される条件不利地域と言われる地域に都市部居住の人材を「地域おこし」の担い手として送り込むことを目的とした制度ですが、地方自治体に雇用されることになることから、その雇用に関わる費用を年400万円を上限とし国(総務省)が負担するという制度です。

その目的については、総務省の地域おこし協力隊関連ページに掲載されている「地域おこし協力隊の概要」という資料の中に以下のように記載されています。

都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住⺠票を移動し、生活の拠点を移した者を、地方公共団体が「地域おこし 協力隊員」として委嘱。隊員は、一定期間、地域に居住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの支援や、 農林水産業への従事、住⺠の生活支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組。

つまり、地域おこし協力隊の一義的な目的は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域へ人を移動されることを目的にしているのです。

さらに言えば都市部から中山間地域に多い過疎集落や限界集落に移住してもらい、その地域の後継者不足の問題や高齢化した地域住民の生活面での支援を行うなど、その地域に人が集まるように地域を盛り上げる活動を支援する制度であるとも言えます。

ちなみに「委嘱」という言葉が聞きなれない方もおられるかと思いますが、委嘱とは特定の仕事を人に任せること、お願いすることを指すようで、「委託」と混同しそうですが、その違いはあまり厳密ではないようです。

非常に自由度の高い制度

上記の「地域おこし協力隊について」を含め総務省が発出している資料においてその他に規定されていることは最長3年間の活動期間や一人当たりの特別交付税支給額の上限の記載がある程度で、たとえば活動費の使途についての細かい指示や活動内容・活動拠点・運営方法に関する記載などは一切なく、兎角様々な条件付けがされることの多い特別交付税を財源とした制度の中で地域おこし協力隊制度の自由度の高さは際立っており、それが本制度の大きな特徴ではないかと思います。


同時に細かい運用方法を各自治体の状況に応じて自由に定めることができる制度であることから使い方によって薬にも毒にもなる制度であるとも言えます。


隊員数推移

平成28年度時点で全国の協力隊数は3,968名、平成27年から28年にかけて1,300名以上増加しています。

また、受け入れ市町村あたりの隊員数も年々増加しており、平成22年当時は2.45人/自治体だったのが、平成28年度には4.49人にまで増加しており、全体の隊員数もそうですが受け入れ市町村あたりの隊員数も確実に増えている様子が伺え、確実にその規模が拡大している様子が伺えます。


受け入れ自治体数の推移

また、受け入れ市町村数は875にも及んでおり、実に全市町村のおよそ半分が協力隊を受け入れているということになります。

また、平成26年12月の事務連絡により地域おこし協力隊に応募できる地域の要件が大幅に拡充されました。
具体的にはこれまでは3大都市圏※1の一部条件不利地域※3に在住している方を地域おこし協力隊として採用しても特別交付税の対象になりませんでしたが、今後は一部条件不利地域の中でも条件不利地域※2以外に在住していれば対象となることになりました。
たとえば、埼玉県秩父市は3大都市圏内であり一部条件不利地域に該当しますが、その秩父市の中でもたとえば秩父市内など条件不利地域以外の地域にお住いの方であれば協力隊に応募ができるようになりました。

これは3大都市圏外であっても同じであり、たとえば栃木県栃木市は3大都市圏外の一部条件不利地域ですが、栃木市の市内に在住の方であれば条件不利地域、たとえば栃木県上野村、に応募できるようになりで採用されれば特別交付税の対象となるようになりました。

上記の応募可能地域の拡充がどの程度応募数の増加に寄与しているか正確に把握することはできませんが、この拡充と同タイミングで3大都市圏外の都市地域(具体的には東名阪地域外の市)における採用が増加しており、両方の相乗効果もあってか2016年から2017年にかけて隊員数が初めて1,000人以上増加していることから応募可能地域の拡充が少なからず寄与していると考えられます。

※1:3大都市圏
日本の三大都市の都市圏である首都圏・中京圏・近畿圏の総称である。これらを総称して東名阪(とうめいはん)とも呼ばれる。
※2:条件不利地域
「条件不利地域」とは、次の①から⑦のいずれかの対象地域・指定地域を有する市町村とする。
①過疎地域自立促進特別措置法(みなし過疎、一部過疎を含む)、②山村振興法、③離島振興法、④半島振興法、⑤奄美群島振興開発特別措置法、⑥小笠原諸島振興開発特別措置法、⑦沖縄振興特別措置法
※3:一部条件不利地域
「条件不利地域」のうち、過疎地域に該当する市町村(一部過疎を除く)、⑤から⑦の対象地域・指定地域に該当する市町村、その区域の全域が振興山村、離島振興対策実施地域又は半島振興対策実 施地域に該当する市町村を「全部条件不利地域」と、全部条件不利地域以外の市町村を「一部条件不利地域」とする。
上記の詳しい説明については総務省HP(http://www.soumu.go.jp/main_content/000335888.pdf)の「地域おこし協力隊員の地域要件について」をご覧ください。

以上のことから分かることは、地域おこし協力隊制度は、自由度が高い制度であるが故にその運用方法が非常に重要な制度であること、そして、平成28年時点で全市町村の約半数が導入するほど急速に隊員数が増加しているということです。

ここ数年で大幅に広がったことによる弊害

近年急激に隊員が増加しており、その背景に隊員に応募できる地域数が増加したと同時に隊員を募集する市が近年増えていることがあることは前述の通りですが、市はもともとアクセスが良いという地理的な優位性があるだけではなく、財政規模も大きいことから魅力的な雇用条件を提示しやすく表面上の競争力が高いため、相対的に競争力が低い規模の小さい自治体にとっては厳しい環境になりつつある様子も一部に見られました。


具体的には相対的に競争力の低い小規模な自治体にて新規に隊員を募集しても応募がないケースや、応募があり採用したとしても着任前に辞退されてしまうというケースも増えていると聞いており、募集自治体の増加と一自治体辺りの募集隊員数のど増加が売り手市場を形成し、さらには市の参入が増えたことで本来もっとも協力隊を必要としている環境的に厳しく財政力が小さい小規模自治体において協力隊を採用できないという状況になっている様子が伺えました。


また、平成27年度より上限400万円の特別交付税の中で報酬に当てることができる金額上限が200万円から250万円に引き上げられましたが、隊員のスキルや地理的条件等を満たす必要があるため、すべての地域・すべての隊員に対して適用できるものではないことから特別交付税を財源とする予算以外からも予算を捻出し200万円の枠の中では月の報酬額は16万6000円が主流ですが、その額を20万円/月またはそれ以上にあげている自治体も見られ、処遇競争の様相を呈している様子も一部に伺えます。


しかし、処遇により隊員を呼び込むことは必ずしも良い結果に結びついていない側面もあり、処遇重視で採用している自治体ほど地域おこし協力隊の報酬を他の一般的な仕事と同様に労働の対価と捉えている傾向が強く、そのためミクロに見ればその地域の将来や町おこしなどを考えず、ただ単に就職先の一つと考える隊員を自ら呼び込むと同時にマクロに見ればそのような隊員を増やすことに貢献しているという側面もあるのではないかと思います。


以前は「思い」がある隊員が多かったがここ数年は「バイト感覚」の隊員が増えてきたと感じている自治体職員や隊員が少なからずいることからも雇用条件に頼った採用は協力隊全体の質に悪影響を与えていることを裏付けているのではないでしょうか。


一方、「処遇のよさ」ではなく本来隊員が求める「思いを実現する場(機会)の提供」を重視し、その機会という「報酬」に対してしっかりとした活動成果としての「義務」を求める自治体もあり、そのような自治体では求める人材像が明確になっていることから「思い」のない「バイト感覚」の隊員が入り込む余地がなく、ある意味本気の「思い」のある隊員で構成されていました。


急速に拡大している状況では玉石混合の状況になることが多いですが、現在の地域おこし協力隊の状況はまさにそれにあたるのではないでしょうか。そして、受け入れ自治体・協力隊共に玉石混合する中で隊員にとっては本気で地域おこしに取り組みたいと思っている「玉」の自治体を見つけることが重要でしょうし、受け入れ自治体にとっては本気の「思い」を持った隊員を採用するために自分たち自身が本気になる必要があるのかもしれません。

以上、今回は制度や現在の市町村の導入状況についてご紹介していきましたが、次回は本制度の大きな特徴である自由度の高さがどんな形で毒になる薬になっているかをご紹介したいと思います。

皆さんの意見を聞かせください

地域おこし協力隊制度はまだまだ発展途上であり、事例やノウハウの共有が必須になります。
皆さんのご意見・ご感想などなんでも結構です。多くのコメントをいただき、本サイトが地域おこし協力隊のノウハウ蓄積・事例共有の場の一つになれば幸いです。